結局ジノに押し切られて、エリア11を案内することになってしまった。
滞ってしまうであろう仕事はジノにやらせてやる。
ああ見えて、ベアトリスに書類の再提出を命じられたことがないらしい。
意外な才能だ。
いや、あんなんでもラウンズの3席に名を連ねているだけはあるのかもしれない。
それにしても。
「…いい加減放せ」
「だってスザク逃げようとしたろ?」
「分かったから。ちゃんと付き合うから」
肩に腕を回されたまま引きずられるようなこの状態だと歩きにくいことこの上ない。
何度か足が絡まりそうになった。
バランスを崩してジノのお世話になるなんてことはなかったけれど。
もう一度、放せ、と強く言うと、渋々といった体で離れていく。
やっと解放された。
でも、本当の意味でそうなるのは、まだまだ先のこと。
「で、何処に行きたいんだ?」
「スザクが行きたいとこ」
「じゃあ執務室」
「それは駄目」
じゃあ聞くな。
告げると、眉尻を下げしゅーんとなって。
凄く悲しそうな顔。
本当に僕はこの表情に弱い。
「…ジノが行きたいとこで良いよ」
「えっどこでも!?」
「それは君がよく分かっていると思うけど?」
「信頼されたなぁ」
ぽりぽりと頬を掻いて、うーんと唸る。
たっぷり数十秒とったあと、ジノは僕に向き直って。
「じゃあゲットーに」
告げられた場所に軽く目を見張る。
やはり、言うと思った。
エリア11、いや今の日本を如実に表す場所。
ジノは言った、エリア11を見てみたいと。
祖界なんてブリタニアが整備した区画は見る必要ない。
見たいのは現実。
「…分かった」
僕はいつも通りに頷けただろうか。
震えていなかっただろうか。
ジノはニカッと笑った。
その地に立った僕たちは無言だった。
直前まで電車にはしゃいでいたジノも口をつぐんでいる。
彼の瞳がたたえる色は普段の人懐こいものではなく、ナイトオブスリーとしてのそれ。
ジノは何も言わない。
僕も何も言わない。
乾いた風がさあっと過ぎ去り、通り過ぎたそのあともそのまま。
ここに来ると厭でも思い出す。
日本のこと過去の自分のことユフィのこと、そして。
自分の罪を。
ふいに僕は笑い出したくなった。
場所なんて関係ないのに。
ゲットーだから、なんて。
溢れ出しそうな気持ちを抑えようと眼を閉じる。
「悪かったな」
声が落ちてくると同時に感じた軽い重み。
僕の頭に置かれた手がひどく温かく感じた。
そこにそっと手を伸ばそうとして気付く。
あぁ僕は触れてはいけない。
汚い僕が、こんなにも綺麗な彼に。
「…何が」
「スザク辛そうだから」
今彼は何て言った?
辛い?僕が?
そんなこと思う資格ないのに。
無意識にぎゅっと手に力を入れる。
「祖界に戻るか」
僕が返事をするより前に、頭上に置いた掌で向きを変えさせられた。
そして歩みを促される。
ゲットーから出るまで、ジノは何も言わなかった。
いちばん やさしい かぜ