学校へ行こう!
「授業参観…ですか?」
「そう。やっぱりやらなきゃならないものだからねー」
「なんか、すごくまともな行事ですね」
「ス、ザ、ク、く、ん?」
思ったことをそのまま口に出してしまったら、ミレイさんから笑顔の鉄槌を受けてしまった。
何やってるんだか、とばかりに周りが笑って。
笑い声が響く中考える。自分はその場にいてはいけないと。
立場は自覚している。
「でも、僕は欠席した方が良いのではないでしょうか?」
「なぁに言ってんのよ!ナイトオブラウンズといえどもアンタはこのアッシュフォード生徒なのよ」
「でも…」
「会長命令でも出そっか?」
「分りました、ちゃんと授業に出ます」
快諾には程遠い返事だったけれど、出席を宣言すると。
ん、よろしい、とミレイさんは笑って頷いた。
確かに数日前、そんなやり取りをした覚えはある。
通達されてから今日まで学校には行けていなかったけれど、僕はそこまで忘れっぽくない。
今日はその授業参観日。
チャイムが鳴る前に席について教科書も出した。
保護者が一人また一人、教室に入ってくる度にざわついてはいるものの、何か起こるということもなさそうだ。
と、そっと息を吐いた瞬間。
きゃーという女の子たちの黄色い声が響いた。
何事かと、と思わず後方へ顔を巡らせた僕は、すぐに振り向いたことを後悔する羽目になった。
そこを悔やんでも意味がない、ただの現実逃避であるけれど、それでも。
何でジノとアーニャが来ているんだ!
授業参観があるなんてことは一言も言っていないし、そもそも仕事はどうした。
僕が政庁を不在にすることで、彼らに割り振られた仕事があるはずだ。
自分が振ったんだから間違いない。
いやそれよりも何よりも。
白の燕尾服を思わせる騎士服を着て、さらにご丁寧にもそれぞれ萌黄色と淡紅色のマントを纏っているのか。
帝国内で一握りの人間にしか着用を許されていないその上着は目立つことこの上ない。
ぽかんとした顔をしていたのだろう、僕は。あまりにも予想外の現実に。
周りの好奇の視線や飛び交う声を全く気にしていない渦中の人物は、構うことなくキョロキョロと教室内を見渡して。
僕を見つけると、それはそれは嬉しそうに手を挙げた。
「おーい、スッザクー」
「……」
「なぁに呆けた顔してんだ?」
にっこにこと笑いかけてくるジノに、ようやく僕は我に返った。
自らの思考の中に沈んでいた意識を浮上させる。
「ちょっ何でここに!?」
「授業参観だからな」
「理由になってない!」
「えー?今日は俺たちがスザクの保護者なの」
「は…?」
自分と同年代の親がいてたまるか。
むしろ僕の方がジノの保護者やってる気分なんだけど。
いや、こんな息子持ちたくはない。
「授業参観のこと言ってないよね?」
「あぁ!ミス・アッシュフォードから聞いた」
「どこで会長と?」
「スザクの歓迎会」
「…このタラシめ」
「へ?」
思わず低い声が出てしまったけれど、幸いなことにジノには届かなかったようだ。
先程から訊ねてばかりで、気にくわないが、訊かずにはおれない。
教室中が自分たちに注目しているのが、更に厭になる。
「それで、その格好は?」
「こーゆーのって正装が基本だろ?」
だからと言ってそれで来ることはないだろう。
そう告げようと口を開いた瞬間、耐えがたい屈辱的な台詞を言われた。
「スザクー保護者が来てるからってそんなにはしゃぐなよー」
「…ジノ、帰ったら覚えておけよ」
この場に居る誰よりもはしゃいでいる奴だけには言われたくない。
なのに、どうしてここで歓声といえる女の子たちの声が上がったんだろうか。
もう授業どころではない。
どうしてくれるんだ。
この害虫をどこかに捨てて来ようと決意した、そのとき。
「スザク反抗期?」
今まで黙っていた彼女がぽつりと呟いたのが聞こえた。
お願いだからアーニャ、それはやめて。
2008/06/11