かわいいひと
「…ごめん」
「君には注意力というものがないのか?」
「ごめん、スザク」
謝罪の言葉を繰り返すジノの頭に、ぺたんと力無く垂れ下がった耳が見えた気がする。
こんなのを誰がこれ以上叱れるというのか。
しかしここで負けてはならない。
心を鬼にして、そう決意する。
「怪我がなかったから良いようなものの」
「うん、ごめん」
「…そう簡単に何度も謝るな」
「でも俺が悪いから」
ダメだ、僕にはもうできない。
そんな捨てられた子犬のような瞳で見つめるな。
「もう良いよ、こんなとこに置いといた僕も悪いんだし」
目を伏せて、そのまま屈んで落ちて割れてしまった破片を拾う。
落下の衝撃に、フレームとガラス部分は耐え切れなかったようで。
ひとつ、ひとつとかけらを掴み、もう片方の手に移していく。
元は写真立てだったもの。
そっと、中の写真を引き抜き検分するが、傷は見当たらない。
その事実にホッとする。
けれど、中を守り切ったこの残骸は、もう修復不可能だろう。
折角貰ったのになぁ。
目の前でしょんぼりしているこの男に。
剥き出しのまま写真を持っていた僕を見兼ねたのか、写真立てをプレゼントしてくれたのは、そう昔のことではない。
使わないし、と渡されたシンプルなそれはジノにしたら随分センスの良いもので。
素直にそう言ったら、頗る微妙な顔をされたっけ。
「っ痛…」
そのときのことを考えながら手を伸ばしたら、意識が疎かになっていたようで。
指先にじんわり熱が集まった。
「あ…」
「わー何やってるんだよ」
「…お前が言うな」
「はい…」
仕方ない、とばかりに血の滲んだ指先を銜える。
「ん…っ」
「…ねぇスザク、誘ってる?」
「誘ってない。君は反省してなさい」
「……イエス、マイロード」
がっくり肩を落としたジノがおかしくて。
つい頭をぽんぽんと2回撫でた。
オカンなスザクに叱られるジノワンコが書きたかったはずなのに。
2008/06/03