It's a mild day
「気持ち良いなぁ」

ごろんと横になって眼を閉じると緑の匂い。
顔を掠める草が擽ったい。
ぽかぽかと降り注ぐ陽の光が大の字に寝転がった男を包み込む。
辺りを微かな羽音を響かせて蝶が舞う。
木々がそよそよと風に揺られて、自然のハーモニーを奏でて。

「あーなんて良い天気…って俺さっきっから独り言ばっか」

あやしーと更に独り言を重ねる。
さぁっ、と少し強く大地の息吹が、横たわった男−−ジノの髪を撫でていく。
真っ白な衣装を纏っているけれど、下敷きになっている草がクッションの役目を果たしているから汚れる心配はない。
目立ちすぎるほど目立つ緑のマントは自室でお留守番だ。
一度眼を開けて、透き通った青を見て再び眼を閉じる。


「にゃー」

穏やかに流れていた空間に、割り込んで来た侵入者。
なんだ、と身体を起こすよりも早く、お腹に重み。
見るとそこには片方の眼の周りに大きな斑点のある濃い灰色をした猫が居た。

「お前、スザクの…」
「にゃあ」

アーサーって言ったっけ、と確認すると、それに答えるかのように一声鳴いて。
そのまま丸くなる。
ジノのお腹の上で。

おいおい、なんでいきなりベットにしちゃってるの。
言おうにも相手は猫だ。
しかも見事に動く気配がない。

「まっいっか」

胸から上だけ起こしていた体勢を重力に委ねて。
再び眼をつぶった瞬間、今度は最近になって聞き慣れた声が響いた。

「なんでっ」
「スザク!」

条件反射のように起き上がろうとしたものの、お腹の上の住人の存在を思い出して、慌てて思い止まる。
肘をついて身体を起こすと、彼は今にも泣きそうな、悲痛な表情を浮かべていた。
駆け寄って抱きしめて、そして慰めてあげたいのに、腹の荷物が邪魔だ。
この上もなく。
退かそう、と一瞬アーサーの方に意識を向けたときに、スザクがぽつり呟きを落とした。

「…ぃ」
「へ?」
「ズルイって言ったの!」
「何が!?」

いきなり声を荒げ、眼に涙を溜めた状態のスザクに、流石にジノもぎょっとする。
自分が何かしたのかと思い返してみても、引っ掛かるものはない。今日のところは。
ただ、庭園で寝転がっていただけだ。
それがいけなかったのか、いやでも待て。
ぐるぐる考えていたジノだが、答えはスザクの方から明かしてくれた。

「…まだ僕の膝には乗ってくれないのに」
「いくらでも乗るぜ?」
「ジノじゃない。乗られたら潰れる。乗って欲しいのはアーサー」

どうやら彼は飼い主である自分よりも、新参者なジノの方が先にアーサーと戯れることに成功したことが悔しいらしい。
それこそ涙を浮かべてしまう程に。

「泣くなよ、スザク」
「泣いてない」
「そうか?」
「…っ、ジノなんてアーサーに噛まれろっ」

何とも微妙な捨て台詞をはいて、スザクは走っていった。
残されたのは、伸ばした手が虚しく空を切ったジノと。
我関せずとすやすや眠り続けるアーサーだけだった。



2008/05/21
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