get away
ちょっと来てくれないか?

そう頼まれて、快くとまではいかなくても了解して。
彼についていっている最中。

何が楽しいのか、この男は終始にこにこにこにこしている。
声もいつもよりかは幾分か弾んでいて。
それくらいの違いは察せれるようになったと思う。
だからといって特に何かある訳では、断じてないけれど。

彼が楽しそうに言葉を紡ぐ度に、一言二言返してはいるものの。
誰が聞いたところで、話が盛り上がっているようには見えないと思う。
ジノは僕なんかと話していて、楽しいのだろうか。
じっと彼の顔を見てみる、と。

「なになにースザク、そんな見つめられると照れちゃうなぁ」
「……」
「えっここで無視!?」

ひどいなぁ、とけらけら笑いながら言うジノを視界から外し、進行方向へと眼を向ける。
ジノは気にした様子もなく、また話し掛けるのを再開して。


夢中になっているのか、段々とジノの足運びが速くなってきた。
それに合わせて僕も足を動かしていくけれども。
どんどんスピードが上がっていく。
こちらがかなり早足になってしまっているのに比べ、少し前を歩く奴は悠々と足を動かしている。
ここまでリーチの差があるなんて。
ジノは無意識だろうが、だからこそムカつく。
息が上がる、とかキツイ、とかなんてことはないけれども、ともすれば小走りになってしまいそうで。
このまま頑張るか、引っ張って落ち着かせるか、それとも素知らぬ顔でジノとの距離をあけるか。
さてどうしようと思案した瞬間、ジノがあ、と声を上げた。

「ごめん」

そう言って明らかに歩みを緩めて。
僕の隣を位置取り、ニカッと笑う。

…ムカつく。
馬鹿にされた気がして、僕はジノを置いていくべく、走り出した。



「待てよースザクー」
「追い掛けてくるなっ」
「スザクが逃げるからだろう、何で逃げるんだよ」
「ジノが追ってくるからだろ!」

途中追い抜いたアーニャが、僕らの方にカメラを構えたのを目の端で捉えた。
続くシャッター音。
あぁ、もう変なところを取られたじゃないか!

記録…、と呟いたアーニャの声に脱力したくなった。



2008/05/17
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