ひかり
柔らかな光が降り注ぐ。
石壁から切り取られた空間には青が映えている。
なんて良い天気。

自分に太陽なんて似合わないけれど、…いやだからこそ手を伸ばしたくなる。
もうこの身は光を求めることは叶わない、求めてはならないのに。
そんなことをしたら、自分は間違いなくその光に浄化されるであろう。
自覚はある。

窓の外はこんなにも澄み切っているというのに。
スザクの心は正反対に曇っていた。


溜め息をひとつ吐いて、手を塞いでいる書類を抱え直す。
と、その時。

「だーれだっ」

危うくこの手の重みをぶちまけてしまうところだった。
寸でのところで耐えた自分を褒めてあげたい。
暗くなった視界をそのままに、先程よりも深い溜め息をはぁと吐く。
こんなことしてくる奴なんて彼しか居ない。

問い掛けに答えなかったのが不満だったのか、眼を塞いだ犯人は何だよー、と拗ねたような声を漏らす。
そのまま、スザクの顔にあった手を下げて、後ろから抱き着いた格好になって。

「…ジノ」
「遅い」

何の真似だと咎めるように名を呼ぶと、呼ばれた相手は間髪入れずに回答が遅いと返して来て。
いくら通行人の行き来がほとんどないとはいえ、天下の往来でじゃれあう趣味はない。しかも男と。

再度抗議を申し立てようと視線だけ彼に向けると。
更にぺとりと密着してきて。
何がしたいんだお前は。
そう言いかけて口を開いた途端、ジノがぼそりと言った。

「さっきっからスザク溜め息ばっか」
「つい先程の溜め息はジノのせいなんだけど」
「浮かない顔」
「元々こういう顔だ」
「あんま1人で抱え込むなよ」
「……」

あぁ、この人は。
なんて眩しいんだろう。


俺はもう、二度と大切な人は作らない。1人で居ると。
そう決めたのに。



2008/05/12
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