今まで気付かなかった、いや気付かないふりをしていた。
ただ認めてしまうのが怖かったのかもしれない。





それでも 僕は 君を





最初から、初めて顔を合わせたあの時から、ジノは僕をただの“スザク”と見てくれていた。
僕に付随する様々な表現などなかったかのように。

「眉間に皺」
「…っ」
「ずっとそんな顔でいたら癖になってとれなくなるぞ?」

額を弾いて揶揄するジノに、僕は一線を引いた。
これ以上入ってくるな。

「笑えよ、きっと可愛い」
「…男に可愛いって言うな」
「じゃあ笑って見せてくれよ」
「は?」
「だって見たことないんだからさ、想像するしかないじゃん」

悔しかったら笑って見せろ、と。
腰に手を当てて偉そうに言うジノ。

「…なんだよ、それは」

呆れてしまう物言いに、自然と顔の筋肉が動いたのが分かった。

「残念、失格」
「何が」
「それはまだ笑ったと言えない。本当の笑顔を見せてくれよな」

私が引き出してやる、と宣戦布告のように言った通り、ジノは事あるごとに僕に構ってきた。



怖かった、ジノがこわかった。
僕に向けてくる温もりがこわかった。
それはすぐに失われるものだと分かっていたから。

何度も言った。
僕に構うな、と。

何度も振り払った。
延ばされた手を。

何度も放った。
拒絶の視線を。


けれどもジノは、そんなものお構いなしに僕へと触れてきた。
いっそ傲慢ともとれる強引さで。

やめてくれ、もうたくさんだ。
みんなみんな僕をおいていくくせに。
手を取っても、結局すり抜けていくくせに。


彼は言った。
お前は何を怖がっているんだ、と。

彼は怒った。
あまり私を侮辱するな、と。

彼は抱き締めた。
僕をそのまま、痛いくらいに。


いつしか僕は、彼に揺れていた。
彼ならば或いは大丈夫だと思えてきた。


「ねぇ、ジノ。僕はもう一度受け取ってもいいかな」
「おう良いぜ!何をキャッチする気なのかは分からないけど」
「分かんないまま言うなよ」

ジノの前でなら笑えるような気がした。
気付いてしまった、君への気持ち。
彼なら僕の―――




* * * * * * *




引き金を引いたのは僕。
ジノはもう僕の隣にいない。

やっぱり俺はぬくもりに縋ってはいけないんだ。

俺に感情なんて必要ない。
鈍く訴える痛みに蓋をする。

ばいばい。
何に別れを告げるのか。
分からないまま別離の言葉を呟く。

ぽとりと何かが落ちて、俺は自分が涙を流していたことを知った。
馬鹿みたい。
傷付いた自分が。
何度も同じことを繰り返そうとした自分が。

もう俺は二度と誰かを受け入れることはしない。
だからこそ認めよう。


そう、それでも ぼくは








普段ほとんど後書きとか書きませんが今回ばかりは。
「ジノはスザクの笑顔の鍵」と公式(?)で言われておりましたが、どうにも良い意味には受け取れなくて。
二度とスザクが笑えなくなるという意味での“笑顔の鍵”に思えて仕方がなかったんです。
なのでここで書いて、後で全然違うじゃん恥ずかしーと盛大に笑い飛ばすつもりでやりました。
でも後悔しかありません。おなかいたい…(苦笑)
2008/08/31
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