ある朝の出来事

比較的すっきりした目覚めで迎えた朝。
スザクはのんびりと朝のひとときを過ごしていた。
こんな風にゆったり時を送れる贅沢。しかもこの時間帯で。
学校へ向かうアーニャを見送って、さぁ行動開始と立ち上がった瞬間。

「遅刻だー!」

緩やかに流れていた空気を、一気に慌ただしくさせた無粋な叫び声が聞こえた。
今日学校へ向かったのはアーニャだけだったから、てっきり彼は自分と同じ留守番組かと思ったのに。
単なる寝坊か、とスザクは息を吐く。
バタバタバタという足音とともに、嵐がバンとドアを開けてやってきた。
下はちゃんと穿いているものの(そうでなければただの変態だ)、シャツのボタンはひとつふたつ申し訳程度に留められているだけで、上着に至っては肩に引っ掛けてある状態。
そんな格好で出歩くな。
学園の女の子が見たら、きゃっと逃げ出してしまいそうな姿。
顔と身体は無駄に良いから余計に目に悪い。
呆れた気持ちがそのまま声に表れる。

「ジノ…」
「大変だスザク!」
「大変なのは君の格好だよ」
「おっドキドキするかい?」
「…君の頭が1番大変みたいだね」
「褒めても何も出ないぜ」
「いや褒めてない」

ぐだぐだ言ってないでちゃんと服を着ろ、と。
風紀委員よろしく注意する。
あ、はい、と素直にボタンへと手に掛けたジノは、すぐにはっとなり。

「こんなことしてる場合じゃないんだって」
「そうだね遅刻だ」
「アーニャは!?」
「随分と前に出て行った」
「裏切り者ー」

桃色の少女が無表情に手を振っているのを思い浮かべ、頭を抱えてうずくまったジノが、いいこと思い付いたとばかりにぱぁぁっと顔を上げた。
ジノが口を開くよりも先に、スザクは駄目、とだけ言う。
絶対にロクなこと言わないということぐらい察せられる。

「…まだ何も言ってないのに」
「聞かなくても分かる」
「わっなんか口説かれているみたい」
「さっさと学校行け」
「スザクは照れ屋さんだなぁ」

遅刻するんじゃなかったのか。
馬鹿なこと言っている暇があるのなら1秒でも早く学校に着けるよう走るなり駆けるなり努力をすべきでは、とスザクは思う。
そしてジノに付き合っていたら自分まで職務に遅れてしまうと危ぶみ、バサァとマントを羽織る。
見切りをつけられたことを察したジノは口をすぼめ。

「じゃあトリスタンで学校行っても良いか?」
「…君のナイトメアはいつから交通手段になったんだい」
「緊急事態だ」
「置いておくスペースないことぐらい分かってるよね?」

そもそも問題はそこではないが。
誰よりもジノが分かっているだろうから敢えて言わない。
本当にぐだぐだしているならさっさと出掛けてほしい。
それがお互いのためだ。
そんなスザクの心ジノ知らず。
ちぇーっと視線を落としたかと思うと、今度はスザクの肩に両手を置いて。

「スザク送ってくれよ」

ランスロットで、と笑みを向ける。
呆気に取られたスザクだったが、すぐに気を取り直し、ジノに負けない程の笑みを浮かべた。



その後スザクの部屋からすごすごと退出するジノの姿が目撃されていた。









2008/08/30
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