―――避けられない


自分が自分でなくなる感覚がスザクを襲う。
もう慣れてしまった、いつもの感覚。
生きろと掛けられた、スザクを支配する命令に、スザクの瞳の縁が紅く輝くものの。

間近に迫った凶弾を避けることは適わず。
スザクの身体の中に吸い込まれていった。

輝きかけた紅は、色を失い。
スザクはゆっくりと膝をついた。


灼熱の棒を捻じ込まれたような。
身体中の熱が全てそこに集まっていく感覚。
受けた傷から鮮血が溢れ出す。
次いで響く銃声は、余すことなくスザクへと飛び込んでいって。
紅く、紅く、染めていく。










―――これで死ぬことができる

朱を一筋刷いた唇を吊り上げる。
視界も霞んできた。
身体に力も入らない。
流れ出る血液とともに、中のものまで零れていく。

これで、やっと。



「枢木スザク」

機械を通したあの声が聞こえる。
緩慢な動作で首を回し、声の主を捉えると。
やはりそこにはスザクを死から遠ざけた彼の黒衣の姿。

けれど。
君の呪縛から今、解き放たれる。

スザクはうっそりと嗤う。
このまま―――

「死ねるとでも思ったか?」

スザクの思考を読み取ったかのように、続けられたその言葉は。
しかしながらスザクの求めていたものではなかった。
ともすれば、閉じてしまいそうな瞳を開き、震える唇で何とか紡ぎ出す。

「っな、に…?」
「私はお前に生きろと命じた」
「あぁ、それで俺は生きるための行動を」
「違うな」

言い掛けるスザクの言葉を遮って、ゼロはそう放つ。
そのまま2人の間に横たわっていた距離を、一歩、また一歩と縮めていく。
そして、すっかりと血の気の失せた顔を見下ろしながら、告げる。

「枢木スザク、お前は生きなければならない。どんな状況であってもな」
「まさか」
「私の命令は絶対だ。何人たりとも逆らうことは出来ぬ。言うなれば、お前の命はお前のものではない」
「俺、は…」
「死ぬことなど叶わない」

断言したゼロへと向けるスザクの眼は、微かに揺れて。
それを見たゼロの唇が弧を描く。
手を伸ばせば、そこにはスザクの顔。
輝きを失いつつある瞳は、それでも澄んでいて。


「お前の命を支配するのは、俺だ」

いっそ傲慢にも取れる台詞を放つと、スザクは目を見開く。
そこに一筋の光が差し込んで。

「お前なら、俺を…」

殺せるんだろう!?
血塗れで息の上がったスザクが、ゼロの首を掴む。
肘を伝った赤い液体が、ぽとりと床に落ちた。

「殺せ、今すぐ…さぁ!!」

叫ぶ声が擦れる。
掴んだ指が震える。
瞳に、再び朱が現れる
ぐっ、と呻き声が零れる。

それを見たルルーシュはスザクの頭をかき抱いて。

「殺して欲しければ―――」

告げられた言の葉に、スザクは穏やかに瞳を閉じた。






嗚呼、美しく残酷な世界に
君は








2008/07/21
PAGE BACK