スクール・ライフ
中華連邦からエリア11に戻って来て。
休学理由だった行政特区日本も一段落した今、スザクはアッシュフォード学園へと来ていた。
ラウンズが3人とも政庁を空けて学園生活を満喫するのもどうかとは思うが、彼等はエリア11統治のために派遣されている訳ではない。
学園に行くのだって、ジノとアーニャはともかく、スザクは任務の一環だ。

そしてその二人に関しても。
学生生活を送ったことのない二人のささやかな願いを叶えてあげたい。
そう思うのは独りよがりな我が儘かもしれないけれど。
スザクは自嘲して門をくぐる。

俯き気味に歩いていたスザクは、視界が陰ったことに気付き、顔を上げる。
ここまで近付いているのに、スザクに警戒させないのは彼ぐらいだ。
そこには、予想通りのジノの顔。
いつもの満面の笑みのオプション付き。

「おはよースザク!」
「…おはよう」

朝から無駄にテンションが高いジノが、無駄にスキンシップを図ってくる。
だいたいこの男は無駄が多いんだ。
無駄に紳士だし無駄にガタイが良いし無駄にかっこいいし。
そこまで考えて、スザクは思考を強制終了させた。
なんだ、この恥ずかしい独白は。
ジノに聞かれたら、スザクの肩に絡んでる腕の力が2割増になるのは間違いない。
そう、ジノはいつものようにスザクの肩を抱いている。
アッシュフォード学園の門前にも関わらず。

「ジノ…ここ学校なんだけど」
「あぁ、スザクは照れ屋さんだなぁ」
「…黙れ」

はいはい、と両手を上げながら、あっさりとスザクから離れたジノ。
そんな彼にスザクは、で?と尋ねる。

「何が?」
「用があったんじゃないのか?」
「そうそう!今日ランチ一緒に食べよう」
「は?」

思わず聞き返してしまったスザクだが、ジノはワクワクと返事を待っている。
断られるとは思っていないだろう。
口では何と言おうとも、スザクはたいてい受け入れてしまう。実際には。

「…分かったよ」

途端ぱぁぁっと笑顔になったジノは、迎えに行くからな、と言い置いて走り去って行った。
まるで嵐のよう。
残されたスザクは、周りの視線に気付かないよう、その場を後にした。



ランチは、中庭でふたりっきりでとり。
はい、あーん、なんてふざけたことをしようとしたジノを押さえ付け、黙々と本日の昼食を口へ運ぶ。
途中掛かって来た政庁からの電話をジノに盗られたのは正直有り難かったけれど。

授業中は、基本的によそ見をすることのないスザクが、ふと窓の外へ視線をやると。
体育をやっていたジノが思いっ切り手を振ってきて。
真面目に授業を受けろ、と訴える。
口の動きでそれを読み取ったジノは大仰に頷いて見せ、戻って行った。

休み時間にはなんだかんだと教室に顔を出して。
3年の教室は来にくくないかと尋ねても、全く、というあっけらかんとした返事。
そうだジノには無用の気遣いだった、と思ったスザクは苦笑を漏らした。




そして放課後。
政庁へと急ぎ戻ろうとしたスザクを確保したジノは今、二人しか居ない教室から彼を逃さない。
夕日が差し込み、教室をオレンジ色が包み込む。
ジノの腕もスザクを包み込んでいる。
最初のうちは抵抗をしていたスザクだったが、既にそれは諦めた。
鞄からここでもできる仕事を取り出し、それに取り組む。
ジノは放置だが、背後から文句が上がることはない。
何がしたいんだ、と思いつつ、満足してるなら良いとばかりに黙々と書類に向かう。
他人が居るのなら、この状況を許すことはない。
けれど、今現在ふたりきり。

ふとスザクがペンを置く。
学校でできる仕事なんて限られている。
もうこれ以上は無理だ。
そう判断したスザクは、変わらずベタリと張り付いているジノへと顔を向ける。

「ジノ、そろそろ帰りたいんだけど」
「おっじゃあ帰るか!」
「…何か用事があったんじゃないの?」
「別に何も?」
「だったらなんで…」

ここまでウザイ程に絡んできたのか。
返答によっては容赦しないと拳を固めたところ。
予想外の答えが返って来た。

「普通の学園生活というものを体験したかったんだ!」
「…は?」

今日のどこが普通だって?
そう突っ込みたくて、彼に普通なんて求めちゃいけないと思い直す。
頭を押さえつつ、情報源は、と尋ねると。
フェネット嬢に聞いた、とあっけらかんと答えたジノに、それは恋人たちの学園生活だと教える気はない。

「じゃあ一緒に帰るぞー」




知らぬが仏ということで。





2008/07/09
PAGE BACK