生徒会室に入った途端、回れ右をしたくなった。



ファンダメンタル・アワーズ




授業が終わり、教室を出て立ち止まる。
今日は急いで政庁に戻らなくても大丈夫だからと。
そう考えたのは一瞬。
僕は迷わず生徒会室がある方角へと足を向ける。

任務でエリア11に来た自分は、生徒会のメンバーであるにも関わらず、なかなか生徒会の仕事に携われていない。
今は何かイベント企画進行中という訳ではないが、あの会長のことだ、突発的なイベントが立ち上がってもおかしくない。
それに、雑用だって立派な仕事だ。
普段不義理をしている分、今日はたくさん働こう。

そんな決意と共にこんにちは、とドアを開けたら。

「おっスッザクー!」

中にはジノの姿しかなかった。
どうせ政庁に帰れば嫌でも顔を合わす相手。
どうしてわざわざ学校に来てまで肩を並べるのか。
せっかくなら、いつも会えない相手と話したい。
本人に聞かれたら、泣き出しそうなことを、心の内でのみ思い巡らせる。

ドアを開けたまま、動かなくなっ僕を訝しんだのか、ジノが駆け寄って来た。
心の声は聞こえていないから、涙の気配はなく、ただ満面の笑みを称えている。
そして制止するよりも先に、ズシリとした重み。

「ジノ…学校ではやるなって言っただろう?」
「照れなくても良いのに」
「…怒るよ?」

言葉通りに、僅かに怒りを込めて睨んでも、へら、と笑うのみ。
コイツには何を言っても無駄だ。
溜め息をひとつ落とし、好きにさせてやろうと思い直す。
どうせ今は自分たち以外、この空間に存在しない。

身体の力が抜けたのを感じ取ったジノは、ぎゅうっと腕の力を強めて。
益々密着する。
暑苦しい。
そして何より重い。

「あーやっぱりなんか落ち着くんだよなぁ」
「なんだそれは」
「大丈夫、スザク以外にはやらないから」
「…そう」

しみじみとそんな宣言をされても、どう返したら良いか分からない。
だから僕は、胸の上辺りで組まれているジノの腕に、そっと手を触れた。



しばらくして誰かが部屋に近付いて来た気配を感じ、離れようと行動を起こす。
ぐいと引いた肘が、避けると思ったジノの鳩尾に綺麗に入ってしまった。
しゃがみ込むジノ。
まさか決まってしまうとは。
登場したリヴァルに、お前らって仲良いな、と言われたのはまた別のお話。






2008/06/25
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